【人工知能(AI)】生成AIは「にせもの」なのか?
はじめに
平日の朝8時から放送されているラジオ番組の中で、経済アナリストのM氏が、GPUの作成を手掛けるN社の株価の話題の中で、生成AIに対して、「あんなのはにせものですよ」と発言していました。
これを聞いたときにショックを受けました。少なくとも、生成AIを日常的に使っている我々に対して、そうでない人たちは、まったく別の視点で見ているということに対してです。
ここでは、何をもって「にせもの」と言っているのかを考察していきたいと思います。 なお、これは「生成AI」の文脈で出てきた発言ですが、以下では「人工知能」と重ねて考察していきます。
(余談ですが)
もともとは、「論理と生成AI」と題して、「ニューラルネットワークに対する論理推論の必要性」のような内容の記事を書くつもりだったのですが、OpenAI社の「o1-preview」が発表されたので、とりやめました。o1-previewは複雑な推論が可能な思考プロセスに長けたモデルになっているようです。もう少し動向を見極める必要がありそうです。
人工知能(AI)の定義
以前の記事でも提示していた、次の定義を提示しておきます
「人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれを作る技術」(松尾 豊.『人工知能は人間を越えるか』. KADOKAWA, 2015, P45. より引用)
これも、同じ記事で言及したのですが、第3次人工知能ブームにおいては、人工知能=ディープラーニングという認識を持たれたことがありました。ここでは、本体の意味の(ディープラーニングや、生成AIをその部分として含んでいる)人工知能という位置づけです。
技術としての人工知能
人工知能という言葉を注意しなければならないのは、それが技術としての人工知能なのか、対象(成果物)としての人工知能なのかが文脈によって使い分けられているという点です。(細かいことを言えば切りがないので、ここでは大きく2つに分けます)
第3次人工知能ブームのピークのころに、ある「人工知能」の教科書が出版されました。それに対して、当時のTwitter上で「ディープラーニングの時代に、こんな古い情報を出されても意味がない」という投稿をした人がいました。確かに、人工知能=ディープラーニングという認識で、その解説を期待している人からすると、そこだけを説明してほしかったのかもしれません。しかし、『「人工知能」の教科書』として書かれたということは、関連情報を読めばすぐにわかることでした。ということは、人工知能を学ぶ人たちに知っておいてほしい基本的な知識も書かれているはずです。したがって、直接的にはディープラーニングにつながらないのはあたりまえだったのです。
このように、単純に「人工知能」と言っていても、その人がどういう意図・文脈で言っているかを見極めておかないと、的外れな指摘になってしまうこともあります。
この観点から件の発言を見てみると、生成AIそのものに対して「にせもの」と言っているのであって、生成AIや人工知能の技術に対して言っているのではないだろうと判断できます。
(余談ですが)
人工知能の技術分野(研究分野)は拡大し、全体を俯瞰することも困難になっている状況です。それを整理したものとして、人工知能学会の「AIマップ」があります。複数の観点からまとめてあるので、見やすいものから選ぶことができます。
個人的には、全体的な傾向を説明する際には「AIフロンティア」を中心にした図を紹介することが多いです。

対象(成果物)としての人工知能
生成AI=対象(成果物)としての人工知能に対して「にせもの」と言っているのでしょうが、もう少し深堀りしてみましょう。
我々技術者/研究者が、生成AIを分類しようとすると、おそらく、作成した会社・組織やそのバージョンによって分類するでしょう。
しかし、世間一般にしてみれば、そんなことは気にしないのでしょう。むしろ、おそらく、何かの期待があって、それに対しての期待外れ感が「にせもの」と言わせているのだと考えるほうが自然です。
では何を期待しているのでしょうか。少し考えてみます。
- 何でも知っていて、間違えない
- 知識量の問題に帰結しそうです。知識量を増やすほど賢くなることは証明されています。とはいえ、知識量が少ないことを「にせもの」扱いするとは考えにくいですね。
- 身体を持っていて、実世界で行動する
- ロボットに搭載する研究も別途行われています。これも「にせもの」というのは的外れな気がします。
- 自律的に行動する
- これは根本的な動作原理にかかわるところです。なるほど、これが実現できてない時点で「にせもの」と評することはありそうです。ただし、これは、AGI(汎用人工知能)の範疇に入ってしまいます。
人工知能の思考プロセス
別の考え方として、その思考プロセスを問題視している可能性に思い至りました。
「人工知能」を「人間のように考えるもの」と期待してしまっているというものです。
おそらく「人工知能」=「人工(的に作られた人間と同じように考える)知能」と考えるのでしょう。
まず、生成AIがどのような仕組みで回答を生成しているかを考えてみます。誤解を恐れずにものすごく簡単に言うと、「前の文字列につながる文字列を生成する」ということを行っているにすぎません。
これは、人間である我々が行っている思考のプロセスとは明らかに異なっています。
その観点では、「にせもの」ということができます。人間と同じでない、すなわち、「人工(に作られた人間と同じように考える)知能」ではないというわけです。
しかし、この考えには2つの齟齬があります。
- 「人工知能」≠「人工(的に作られた人間と同じように考える)知能」
最初の人工知能の定義を見直してみましょう
「人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれを作る技術」(松尾 豊.『人工知能は人間を越えるか』. KADOKAWA, 2015, P45. より引用)
あくまでも「人間のような知能」なのです。「人間と同じ」ではないのです。
- 「人間と同じように」考えなくてもよい
結果が同じであればいいのであって、過程(プロセス)が同じである必要はありません。たとえば、空を飛ぶために鳥と同じ仕組みを再現する必要はないのです。飛行機が飛んでいる原理は鳥が飛んでいるものとは全く異なります。それでも「飛ぶ」ことは実現できています。
「人工知能」が人間の自然知能と同じプロセスで回答を導き出さなければならないということはないのです。
結論:「過度な期待」による理想と現実のずれ
どうやら、世間一般の「生成AI」への認識が、「過度な期待」になっていることが原因のように思えます。
ちなみに、以前にも紹介した「Gartner、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年」を発表」によれば、「生成AI」は現在、「過度な期待」のピーク期に位置しています。

このように「理想」と「現実」のずれが起こっていることから、「にせもの」という発想が出てきてもおかしくありません。
(余談ですが)
20年ほど前に、かな漢字変換や形態素解析の結果が100%でないのはおかしいと言ってきた人がいました。「コンピュータは計算ミスしないんだから結果は100%になるはずだ。ならないのはプログラムにミスがあるからだ。」という主張でした。(出現確率による推定を限られた量のデータで行っているので、100%は無理なんですけどね。)
これは、コンピュータへの幻想と、技術への無知が原因です。これもまた、「過度な期待」と言い換えてもいいと思います。
時代は繰り返しています。同じことが、生成AIでも起こっているのでしょう。「にせもの」発言もその一例と考えられそうです。
「にせもの」の向こう側にある本物
それでは、これを「にせもの」でなくするにはどうしたらよいでしょうか?
ライト兄弟が初めて飛行機を飛ばしたころになんと言われたかわかりませんが、現在の飛行機の状況を見て「(鳥とは違うので)にせものだ」という人はいません。
IT技術の例として挙げるなら「かな漢字変換」もそうでしょう。30年ほど前に発達したのですが、その当時はいろいろなIT系雑誌などで誤変換について毎回のように指摘されていました。(開発者の立場では、非難されているかのようにも感じることもありました。)しかし、現在では、様々な機器で普通に使われており、たとえ誤変換があってもいちいち指摘する人はいません。
これらの例から言えることは、実用上不都合がなくなって、便利に使えるようになれば、何事もなかったかのように受け入れるだろうということです。
では、生成AIはどこまで行けば、受け入れられるようになるでしょうか?次のような点が重要だと考えられます。
- 信頼性の向上
生成AIが提供する情報の正確性を高め、それが信頼できるものであることを示す必要があります。これにより、高度な意思決定を支援する手段として利用可能になるでしょう。
- 実用性の確立
日常的に使えるレベルの成果を出せるようになる必要があります。継続的にモデルを改善し、学習対象の範囲を広げることで、多くの分野での活用を促進するべきです。
- 誤りの認識と透明性
生成AIが自らの限界や誤りを認識し、それをユーザーに伝える機能を備えることで、期待に対して透明性のある技術として位置づけられます。過度な期待による誤解も減るでしょう。
- 社会的価値の提供
最終的には、生成AIが人々の生活をより良くし、社会的な価値を提供できれば、「にせもの」という指摘は薄まり、当たり前のように社会に受け入れられていくでしょう。これらの点を考慮しながら、技術的な進化の中で課題に柔軟に対応し、実社会での価値を実証していくことが鍵となります。かな漢字変換やその他の技術が普及したように、生成AIもまた「本物」として認識される時がくるでしょう。
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