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“待ったなし”の環境課題に爆速で最適解を提示。地球規模のビッグプロジェクトをAIで推進

“待ったなし”の環境課題に爆速で最適解を提示。地球規模のビッグプロジェクトをAIで推進

株式会社IHI様

株式会社IHI

産業システム・汎用機械事業領域 事業開発部

主幹 神木 哉 様

主査 中森 慎太郎 様

資源・エネルギー・環境、社会基盤、産業システム・汎用機械、航空・宇宙・防衛の4つの事業分野を中心に新たな価値を提供する総合重工業グループ、IHI。同社は日本を代表する大手製造業として「自然と技術が調和する社会を創る」ことを目指し、さまざまな社会課題に挑戦しています。

今回はIHIのサスティナビリティ活動の一環として産業界のカーボンニュートラル対策に取り組む神木様と中森様にインタビューを実施。地球規模のビッグビジョンを叶えるためのプロジェクトにBizFreakをパートナーとして選んだ理由、開発過程でのエピソード、さらに今後期待することなどについてお話をうかがいました。

時間は足りない、情報量は膨大

ーまずはIHIの事業内容について教えていただけますか?

神木:当社の事業は大きく4つのセグメントに分けられています。ひとつは航空・宇宙・防衛事業領域で飛行機やロケットのエンジンを造っています。もうひとつは資源・エネルギー・環境事業領域。ここでは火力発電所やLNGのタンクなどを造ります。さらに橋梁などを造る社会基盤の事業領域。そして最後に産業システム・汎用機械の事業領域となります。製造工場様向けの物流システムやコンプレッサー、ボイラーなどを造っています。

ーお二人が所属されているのは…

神木:産業システム・汎用機械事業領域です。この部門で産業界のカーボンニュートラル対策に取り組んでいるのが我々になります。カーボンニュートラルとは言うまでもなく、温室効果ガス排出量と吸収量を均衡にして排出量の実質ゼロを目指す活動のこと。今年も記録的な猛暑でしたが、地球温暖化はもはや待ったなしの社会課題。私たちは産業機械を造る企業としての社会的責任を、何らかの形で果たしていくべきと考えています。

中森:IHIはもともと製造メーカーであり、エネルギーを使う側の製品を造っています。そこに対していかにCO2を削減する施策を打っていけるか。世界共通の環境課題に会社全体として向き合うという大きなビジョンを掲げているんです。


神木:ところがこの社会的責任は規模が大きすぎる。IHIだけではカーボンニュートラルの実現は到底不可能です。そこで一社でも多くの仲間を増やしていき、コミュニティとして社会全体のCO2削減に向けて活動していこうというスタンスを固めたわけです。

ーこのプロジェクトとBizFreakとはどういったつながりが?

神木:カーボンニュートラルに向けてスピードを持っていろんな事業を立ち上げていく、というのが当初の目標でしたが、いかんせん企業規模が大きいと何をするにも時間がかかる。でも世の中の状況は待ったなし。一刻も早くカーボンニュートラルの実現が望まれています。何としても早期に事業検証から事業化を図っていく必要がありました。

ただ我々も環境問題やその解決手法についてはそれなりの知見がありますが、最新AI技術と私どもの知見を融合させていかにスピーディに構築していく手法については悩んでいました。そんなときに『CIC Tokyo』内のIHIのオフィスの近くにBiz Freakがあることを知りまして。

平:IHIさんとは別の案件でつながりがあったのですが、確かに部屋も近かったですね。それで神木さんから一度話を聞いてくれないか、というステップだったと覚えています。

神木:カーボンニュートラルの実現にはいろんなエネルギー最適化の手法をたくさんの人に使ってもらう必要があります。ただ、それに対する情報があまりにも多すぎて、チャレンジャーと自負する私も不安になったんですね。世の中のエネルギーに関する情報を全て網羅するのは相当難易度が高い。本当にできるのか…と途方に暮れていたときにBiz Freakと出会ったんです。

ー最初に話を聞いたとき、BizFreak側はどう感じましたか?

平:ビジョンがあまりにも壮大で、なおかつ僕らにとって実績がほとんどない領域の開発です。最初はお引き受けできるかなと思ったのですが、細かくお話を聞いていくと従来の開発手法を踏襲するやり方では難しい、ということがわかった。で、あれば逆に僕らが得意とするAIを活用すれば解決できるんじゃないか、と。

ーIHI側の抱える課題の解決の糸口が見えたんですね

平:スピードの問題に関しては爆速開発で解決できる自信があります。そして膨大な情報量についてはLLM、つまり大規模言語モデルに情報を吸い上げるところからソリューション化すれば、僕らのバリューを発揮できるんじゃないかと考えました。

神木:このプロジェクトはオープンイノベーションなので、それまでもさまざまなスタートアップとのマッチングプログラムがあったんです。実際にいろんな会社さんとやりとりしてきましたが、Biz Freakは他社とは明らかに違っていました。平さんもメンバーの方も違っていた。

ーどんな点において違いがあったんですか?

神木:私どもが感じたのは大きく3つの違いです。1つ目は、Biz Freakは平さんも自負されているように他と比べて圧倒的にスピード感が違うこと。2つ目に,最新情報に対するアンテナが高く,ものすごい勢いで進化する情報を的確にキャッチしていること。そして3つ目に,平さんが大企業を経験しているので我々の仕事の進め方というか、勘所を実によく押さえてくれていることです。

中森:スタートアップって大学卒業後にすぐ起業、といったケースも多く見られて、それはそれで良いことなんですが、どうしても大手企業とのパートナーシップに必要なプロトコルのようなものが抜けてしまいがちなんですよね。それでお互いモヤモヤすることもあったりして。そこに対してBiz Freakは私たちのことを理解した上で爆速での進め方を考えてくれる。非常に助かっているポイントです。

OODAのループを高速で回す上で欠かせないパートナー

ー具体的に何をつくるか、というビジョンは見えていたんですか?

平:何かひとつプロダクトをつくって終わり、という性質のプロジェクトではないので、いろいろなPoC(※)を進めながらトータルで全体感を見ながらやっていこうと。世の中にまだない領域へのチャレンジです。やることがどうしても最先端になるので、走りながら全体モデルを描きつつ足元ではPoCを回していくという。

※PoC…サービスのアイデアや技術が実現可能かを確認する一連の検証作業

ーSaaSなど既存のサービスを使う発想は?

神木:途中まで考えていましたが、Biz Freakと出会ってからその発想はなくなりました。汎用的なツールではどうしても一般的な情報で作られる仕組みになりがち。我々としてはもう一歩奥へと踏み込んで、お客様と一緒にカーボンニュートラルに取り組めるところまでいきたかったんです。

中森:お客様に寄り添い伴走するところまで、ですよね。

神木:お客様もエネルギーを軸にした一般的な情報まではお持ちなんですよ。でも具現化するところまではなかなか踏み込めない。やってみないとわからないから勇気がいるんです。そこを「よし、やってみようか」と腰をあげてもらうには徹底的に寄り添うスタンスが必要。それが伴走するというイメージです。

我々がやろうとしているのはPDCAではなく、OODA(*)です。Observe(観察)、Orient(方向づけ)、Decide(意思決定)、Act(行動)。この高速ループをBiz Freakとなら一緒に回せるんじゃないか、いや、絶対に回せると確信したんですね。


*OODA(ウーダ)ループ:

ジョン・ボイド氏(米、軍事戦略家)が発明した、先の読めない状況で成果を出すための意思決定方法。従来のPDCAサイクルでは、計画の段階である程度の時間を要するため、新規事業には適していない。一方、OODAループは、現状分析が起点となっており、もし変化が起きてもフレキシブルに対応が可能。より高速に何度もサイクルを回すことで、問題解決力が向上し、軌道修正しながら作り上げることができる。

OODA(ウーダ)ループは、「Observe(観察)」「Orient(仮説構築)」「Decide(意思決定)」「Act(実行)」の4つのプロセスを「Feedback Loop(ループ)」することで完成する。 OODAループを高速に回すことで、精度の高いアクションを生み出すことができる。

ーお客様に寄り添ったエピソードがあればぜひ

神木:実際に我々のお客様の工場に一緒に足を運んでもらいました。私どもが省エネの提案を実行した結果,約40%の削減ができたお客様です。この提案から実行のプロセスをAI化していくために、お客様との会話,アプローチの仕方から進め方を、Biz Freakから直接お客様にヒアリングしていただき,臨場感を感じてもらいました。

平:結局、新しいプロジェクトに主体的に参加していただく構造をつくるには、お客様のウォンツやニーズ、モチベーションを喚起する必要があるなと思ったんです。実際に神木さんとお客様のやりとりに同席することで、どういったプロセスでIHIが顧客から信頼を獲得し、改善に至ったのかがわかりました。同時に新たな観点をシステムやAIに入れる発想が生まれ、新たに実装させてもらったものもあります。

中森:平さんが大手飲料メーカーで現場を経験されてきたのが大きいと思います。現場で起きそうなトピックスを解像度高く理解しているので、こういうときにこうなるよねという文脈で開発の中にプラスアルファを入れてくれる。常に要求以上のものを作ってくれるというのがタッグを組んでから改めて実感しているBiz Freakの価値です。

神木:ひとつエピソードを思い出したのですが、オープンAIのChatGPTに対抗してGoogleがGeminiをリリースしたときのこと。プレスがあって1週間後ぐらいにBiz Freakのメンバーにどっちがいいの?って聞いてみたんです。

そうしたら既にGeminiの全てを調べてあり、実際に私の前で動かしながらこういう特徴があります、と。その上でIHIがやりたいことをやるならこちらのほうがいいですよ、とアドバイスまでしてくれたんです。あの時はビックリしましたね。

平:私どものエンジニアのミッションは「担当した事業を成功させよ」なんです。そこに対してメリットがあるなら黙っていても動くメンバーが揃っている。だから何かあれば自然に先回りして調べましたという報告になるんです。すると僕も、もう少しこの部分を深堀りしていこう、という指示が出せるようになります。

新規事業の開発に特化している会社だからこそ、新しい領域に対してディレイしてしまうのは致命的です。そこに対してはガンガン投資していこうという意思決定をしています。

PoCレベルとはいえ3ヶ月で最初の形に

ーさまざまなPoCを経てプロダクトの原型は固まっていきましたか?

平:難易度は高いですがAIを軸としてこうやれば上手くいくのでは、という算段はついていました。現時点での形としては、いわゆるAIサポートツールですね。AIに情報を持たせて適切な回答をしてもらう。情報がどんどん進化していくのでデータベースもどんどん更新していく仕組みをつくりました。

なおかつAIに対して何かを聞いたら返ってくる、ではダメで、AI側からアクションしてヒアリングする。AIは工場のことをあらかた把握してから、マスターデータベースから適切な回答を出していくというモデルをつくっています。

ー主に利用されるシーンは営業場面ですか?

平:いまのところはそうですね。実際に工場にコンサルティングするのは非常に難易度が高いんです。状態のヒアリングにはじまり、どういう施策をやってきたか、工場ごとにどこを目指すのか。ヒアリングの上であらゆる引き出しから提案するのは相当難しい。それを、お一人でやっていたのが神木さんだったわけです。

神木さんと同じレベルまで環境課題を知り尽くすこと。お客様の業界や事業を理解すること。工場の状態と目指すビジョンを共有すること。その上で最適な提案をできるようになるにはゼロから勉強をはじめて何年かかるかわからない。このボトルネックにAIを入れることが肝でした。

ー神木さんの知見をAIに置き換えるような

神木:私の経験則は世の中から見たら些末なものですが、AIの力を使うことでこれまでの経験と世の中にある膨大な情報を集約,お客様のモノづくり(エネルギーの使い方)を中心に置くことが狙い。弊社の営業マンは自分の担当の製品について深い知見や経験、専門知識を有しています。ところが商品を売るのではなくエネルギーを軸にした提案になると燃料、熱、電気、水とさまざまで、なおかつそれぞれに関する知識や情報は膨大になります。

そこに対してAIを活用して、お客様にとって興味の持てるエネルギー最適化の手法を紹介する。人がお客様の元に出向いて成約に至るまで10かかっていたところを7までAIが担当する。なおかついろんな手法や製品群も提案できるようになる。人間は最後の詰めの部分だけに関わればいい、という状態を作りたいんです。

ー現時点でそのプロダクトの完成度は?

神木:プロトタイプです。ただ、最初に動くものが上がってきたのは着手から3ヶ月でした。その文字通りの爆速ぶりにはお世辞抜きで感動しましたね。PoCとはいえ3ヶ月でよくぞここまで、と驚いたものです。またスピードだけでなく質も高かった。AIってChatGPTもそうなんですけどいまひとつ信用ならないところがありますよね。でも、Biz Freakがつくったマシンを動かしてみると、ある程度の正解が返ってくるんです。

平:大規模言語モデルなのでベクトルのチューニングを精緻に行いました。まず何より適切な情報を読ませないといけないし、回答も工場の人が使うとなると曖昧な言葉での入力も想定されます。そのときに中間で受け取ってどうモデルに渡すか、という観点もあり、細かく調整をかけましたね。ただ僕らも業界や環境問題の専門知識は神木さんの100分の1もありません。本当にあっているかどうか手探りでの作業の連続でした。

神木:とにかく実際に目の当たりにすると驚きの一言です。スピードと質を高いレベルで両立させている。PoCの段階であの水準でしたから、プロトタイプの現時点では格段に進化していますよ。

ーでは、まずはIHI社内で利用される日が近いということですね

神木:IHIの1万人の営業・サービスマンが同じ水準の提案をお客様に提供できるツールを目指しています。

ー中森さんから見てBiz Freakの開発体制はいかがですか?

中森:僕はもともと制御系のエンジニアだったのでソフトウェア開発にはある程度知見があるのですが、その観点からみてもBiz Freakは速度が違いますね。新しい技術に対する吸収力もすごい。ここ最近、LLMや生成AIなどの登場により最先端の分野が加速しているのですが、瞬時に自分たちの技術として取り込んでいる点も素晴らしいと思います。

あとは関係性の良さですね。半完成でも動く状態で作って見せてくれるんです。そういうところから、じゃあもう少しここを変えてみようか、とか、こういう情報を足してみよう、とお互いの目線が一致していく。本当に頼りになると思います。

平:新しい技術を動かそうとすると100%にはなりにくいんです。ただ、その状況に対してIHIさんはYesをくれるのでそこから先にトライしやすいんですね。100%の完成品を求められるとどうしても小さいもの、確定できるものしか作れなくて前に進みにくい。その点についてご理解いただけるからこそ、僕らもエンジニアとしてパフォーマンスが発揮しやすいんです。

ビッグプロジェクトの一翼を担う手応えの大きさ

ー開発への理解はプロジェクト特有?それともIHI全社の気風ですか?

神木:IHIでもアマゾンのデザイン思考やアジャイル開発などを取り入れているので会社全体としての風土といえるでしょう。あとタッグを組む相手を選ぶ目線も大手とかスタートアップという枠はなくて、常にゴールに向けて最適なパートナーと組んでいます。

中森:AIに関しては回答の精度が問題とされるケースが多いですが、僕はまったく否定的ではないんです。情報の入れ方が間違っていることもあるはず。その上で、どうしたら良くなっていくかを考えるべき。なので回答に対する不確実なところは一定量の許容を認めていますよ。7割ぐらい合っていればいい、というスタンスです。

平:この辺りにご理解があるのも本当にありがたいです。LLMに限らずAIもニューラルネットを使用しているのですが、計算式に立ち返ると誤差関数をゼロにするのは不可能なんです。ハルシネーションを絶対になくすのは難しい。それを理解した上で適切なチューニングを施しながら全体のビジネスモデルの設計を進めていただいているので、僕らもその中で最高のモデルをつくっていこうとモチベーションが上がっているんです。

ーBiz Freakの社内でも盛り上がっているんですね

平:やはりビジョンの大きさが違いますよね。日本、あるいは地球を変えるかもしれない新規事業に対しても僕らがバリューを出せる領域がある、というのはすごくワクワクします。エンジニアもただWebサイトをつくればいい、ではなくて、ビッグプロジェクトの一端を担っていることに喜びを感じています。

ーBiz Freakとの取り組みを通じて新たな気づきや学びなどありますか?

神木:いちばん最初に思ったのは、楽しんでいるということ。みなさん楽しく仕事をしていますよね。役割分担が明確であり、言葉を多く交わしているようには見えないですが,きちんとコミュニケーションが取れている。一人ひとりが独立した役割を持ちつつ、それが自然に共有されている。やらされ感など一切なく、楽しんでいるなあと。これを学ばせてもらっています。

中森:納期に対する意識の高さを感じますね。しかもここまででいいか、といった割り切りは一切ありません。ある意味、泥臭い部分なのかもしれませんが、大いに見習うべきポイントだと思っています。


ー今後のBiz Freakに期待することは?

中森:僕らの知らない技術に関してアンテナを高く張っていち早く取り入れてくれる点。ここは継続して期待したいところですね。いまここで話している間にもAIは進化を遂げています。それをタイムリーにキャッチアップして、プロジェクトに活かしてもらえたら最高です。

神木:オフィスがCIC Tokyo』に入っている以上、いろんな企業とのコミュニティがあると思います。異文化交流を通して新しい潮流、トレンドをどんどん吸収してほしいと思います。どうしても我々は本業にまっすぐ向き合ってしまいがちなので、7色の変化球を投げていただきプロジェクトに刺激を与えてほしいですね。

ー最後に平さんからIHIのお二人にふだん伝えられないことなどあれば

平:深く関わらせていただけばいただくほど、ビッグビジョンならではの手応えを感じます。地球環境という絶対的な課題の解決にパートナーとして貢献できているのは本当に嬉しい。社員はもちろん家族や友人、さらにこれから私どもの会社に入りたい人たちにも胸を張って自慢できるプロジェクトです。引き続きよろしくお願いいたします。

神木・中森:こちらこそ末永くよろしくお願いいたします。

ーみなさん、ありがとうございました!


▼『IHI』

https://www.ihi.co.jp/


  • インタビュー実施日: 2024年6月6日
  • インタビュアー: 早川 博通
  • 編集: 早川 博通
  • 写真: 小野 千明

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